Column
2025年7月30日

Trip.01 空間をレトロに、モードを変えるグラフチェック

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「柄のある空間をスタンダードに」、私たちの想いが少しでも皆様に伝わるように、
柄にまつわる読み物や新作情報をお届けしていきます。
それでは、記念すべき第一回目、どうぞお楽しみください。

Trip.01
空間をレトロに、
モードを変えるグラフチェック

スウェーデン・ストックホルムにあるホテル「ビリエル・ヤール」の337号室(現在は改装されている可能性があります)1990年代、イギリスのサー・テレンス・コンランや、アメリカの実業家のイアン・シュレーガーらが、ロンドンやニューヨークなどを舞台に、デザインホテルのムーブメントを生み出しました。

当時、日本の雑誌などでも特集が組まれていたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。北欧における先駆けとなったのが、スウェーデン・ストックホルムにあるホテル「ビリエル・ヤール」でした。

1974年に開業したビリエル・ヤールは、1999年に全面的に改装され、スウェーデンを代表する建築家やデザイナー、ブランドがプロデュースした 16のデザインルームが誕生しました。

1924年に創業した老舗のインテリアブランドのスヴェンスク・テン、大学の卒業制作として発表したコンクリート製の椅子が物議を醸したヨナス・ボーリン、建築から家具、プロダクト、広告まで手がけるトーマス・サンデルなど、錚々たるメンバーが選ばれたのです。

ヨナスもトーマスも、今ではすっかり大御所です。

ホテルの外観の写真(2007年当時)

45年後の2015年に惜しまれつつ解散しましたが、最後まで残り、デザインから経営まで 
担ったのが、ビルギッタ・ハーントム・ヘドクヴィストインゲラ・ホーカンソンの 3 
人でした。色鮮やかで、大胆な柄が目立つなか、トムのデザインはチェックやストライプなどの幾何学模様が目立ちました。

線の太さや間隔によって、デザインの佇まいが変わるという、シンプルのなかにある奥深さを教えてくれました。

ティオ・グルッペンのロゴ

木製のフローリングと濃淡のグリーンの壁がスウェーデンの森をイメージさせる部屋、ポップな水玉の壁が空想の世界へいざなってくれる部屋、照明の使い方がアーティスティックな部屋など、ドアを開けるたびに心が高揚するなか、個人的にもっとも惹きつけられたのが「337号室」でした。

ほかの部屋がパステルカラーを用いたりしてやわらかな印象なのに対し、白と黒を基調とした空間はシックでモダン。でも、堅苦しさは感じられず、街中を歩き回って疲れて戻った夜には、こういう落ち着いた部屋でゆっくりと過ごしたいと思ったほど。

壁の「グラフチェック」と床の「ブロックチェック」のコンビネーションのなかに、赤や黄色の差し色が効いています。

グラフチェックとは、方眼紙のような細かい格子柄のことで、ラインチェックとも呼ばれます。スーツやドレスシャツなどで採用され端正で清潔感がありますが、格子柄が大きくなるにつれて、レトロ、モードというふうに雰囲気が変化していきます。

シンプルでありながら奥深い柄で、さまざまな空間を演出してくれます。

337号室をデザインした、トム・ヘドクヴィストについて紹介させてください。

母校でもあるストックホルムのベックマンズ・カレッジ・オブ・デザインの学長や、ヨーテボリのロースカ美術館の館長を務めるなど、現代のスウェーデンデザインの重鎮であるトムですが、一番の功績として挙げたいのが、伝説のテキスタイルのブランド「ティオ・グルッペン」の創業メンバーとしての顔です。

ティオ・グルッペンは1970年、10人の若手のデザイナーにより発足し、窮屈な業界の枠にしばられず、テキスタイルのデザインから店頭での販売まで自分たちで行いました。

当初は、業界内でも取るに足りない存在でしたが、「10」のロゴは次第に認知され、スウェーデンでも有数のブランドに成長しました。彼らの存在は青春そのものであり、自由の象徴のようでした。

2015年に閉店した当時の店内の写真。幾何学模様の柄はトムによるものが多い

日本のインテリア、特に壁面の意匠に関しても、既成概念にとらわれずに、もう少し自由に大胆になってもいいのではないでしょうか。

萩原健太郎
文筆家。日本文藝家協会会員。デザイン、インテリア、北欧、手仕事などのジャンルの執筆、講演を中心に活動。著書に、『暮らしの民藝』『北欧の日用品』(エクスナレッジ)、『ストーリーのある50の名作椅子案内』(スペースシャワーネットワーク)、『北欧とコーヒー』(青幻舎)などがある。

LIMELIGHTの
GRAPH CHECKシリーズ

LIMELIGHTのグラフチェックは、独特の立体感が特徴です。5色展開なので、空間のイメージに合わせてお選びいただけます。