デザインの歴史において、ジオメトリックパターン(幾何学模様)が最初に大きく取り上げられたのは、今からちょうど100年前、1925年のパリ万国博覧会にさかのぼります。
それまでのデザインのトレンドは、ジャポニスムを一つの源流とするアールヌーボー(曲線的、アシンメトリー)でしたが、この万博を機にアールデコ(直線的、シンメトリー)へと移り変わり、「アールデコ博」とも呼ばれました。
アールデコを代表する建築として、旧朝香宮邸(現在の東京都庭園美術館の本館)がよく知られています。https://www.teien-art-museum.ne.jp
この邸宅のインテリアには、アールデコ博で多くのパビリオンの内装を担当した画家、室内装飾家のアンリ・ラパン、ガラス工芸家であり、シャンデリアや正面玄関のガラスレリーフを製作したルネ・ラリックといった、錚々たるメンバーが関わっています。花や草木などの有機的なモチーフが特徴のアールヌーボーは、時代(世紀末)や場所(パリなど)の空気を強く感じさせます。
一方で、アールデコには普遍性があるように思います。ただ、それは「無個性」という意味ではなく、空間に独自の個性を与えるデザインです。
たとえば、2000年の創業以来、ニューヨーク・SOHOのランドマークであり、カルチャーの発信地にもなっている「ロキシーホテル」では、バスルームの壁紙にジオメトリックのパターンを採用しています。https://www.roxyhotelnyc.com
周囲の喧騒から逃れ、本来の一息つくための空間に、洗練と知性の要素を付加しています。
また、映画監督のウェス・アンダーソンは、自身の作品のインテリアにシンメトリーを多用しています。2023年には、「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」が開催され、ご存知の方もいるかもしれません。
さらに、世界中のファンが、ウェス・アンダーソンの映画に登場しそうな実在の風景を投稿するインスタグラムのコミュニティー「Accidentally Wes Anderson」も人気を集めています。そのフォロワーの数は、200万人に迫る勢いです。
https://www.instagram.com/accidentallywesanderson/
ウェス・アンダーソンの映画はどれもお洒落ですが、その魅力の一因として、直線的でシンメトリーな構図、ジオメトリックなデザインが挙げられます。インテリアの観点からおすすめしたい作品の一つが、『フレンチ・ディスパッチ』(2021年)です。